解体業と聞くと、多くの人が「体力的に厳しい仕事」「危険が伴う現場」といったイメージを思い浮かべるかもしれません。そして、そのイメージとセットで語られがちなのが、「大変な仕事の割に、収入はそれほど高くないのではないか」というお金に関する不安です。
実際に、インターネットで情報を集めたり、周囲に尋ねたりすると、そうした声が聞こえてくることもあるでしょう。これからこの業界に足を踏み入れようと考えている方にとって、自身の頑張りが正当な収入として返ってくるのかどうかは、最も気になるポイントの一つです。この漠然とした不安が、解体業という選択肢に一歩踏み出すことをためらわせる、大きな壁になっているのかもしれません。
しかし、その「稼げない」というイメージは、果たして本当に実態を反映しているのでしょうか。もしかすると、それは少し古い情報や、一部分だけを切り取った見方なのかもしれません。
大切なのは、世の中に流布するイメージだけで判断するのではなく、客観的なデータや業界の仕組みから、その本質を見極めることです。ここからは、解体業の年収に関する本当のところを、具体的な数字や構造から紐解いていきましょう。一体、現実はどうなっているのか。そして、この業界で収入を上げていくためには、どのような道筋があるのかを、じっくりと見ていきます。
データで見る、解体業のリアルな年収水準
言葉のイメージだけでなく、実際のデータから解体業の年収水準を見ていきましょう。公的な統計などを参考にすると、より客観的な立ち位置が明確になります。
解体工の平均年収と日本の平均との比較
厚生労働省の統計データを見ると、解体工が含まれることが多い「建設躯体工事従事者」の平均年収は、おおよそ400万円台前半から半ばで推移しています。これは、国税庁が発表している日本の給与所得者全体の平均年収である460万円前後と比較しても、決して極端に低い数字ではないことがわかります。
もちろん、これはあくまで平均値です。全産業の平均には、非常に高い年収を得ている専門職なども含まれているため、一概に比較はできません。しかし、「きつい割に稼げない」というイメージが先行しがちですが、データ上は社会の平均的な水準と大きくかけ離れているわけではない、という点は押さえておくべきでしょう。
経験と年齢が収入に与える影響
解体業の大きな特徴は、経験が収入に直結しやすい点です。入職したての20代の頃は、日本の平均年収を下回るスタートになることもあります。しかし、ここは技術を習得し、経験を積むことが何よりも価値を持つ「職人の世界」です。
現場で知識とスキルを身につけ、30代、40代とキャリアを重ねるにつれて、収入は着実に上昇していく傾向にあります。特に、重機の操作や特殊な工法の技術を身につければ、若くても高い評価を得ることが可能です。ベテランの域に達する頃には、日本の平均年収を大きく上回る収入を得ている人も少なくありません。年齢と共に体力が落ちても、培った技術と経験が収入を支えてくれるのです。
地域差も重要なポイント
働く場所によっても、年収には差が生まれます。一般的に、大規模な工事案件が多く、物価も高い首都圏や大都市圏では、年収水準も高くなる傾向があります。求人情報を見ると、地方に比べて数十万円から、場合によっては100万円以上の差が出ることもあります。
ただし、年収の額面だけで全てを判断するのは早計です。地方には、家賃や物価が安く、生活コストを抑えられるという大きな利点があります。そのため、可処分所得、つまり手元に残り自由に使えるお金で比べると、都市部と地方で大きな差はない、というケースも十分に考えられます。自分がどのような環境で働き、暮らしていきたいかという視点も持って、総合的に判断することが大切です。
なぜ、同じ解体業でも年収に差が生まれるのか?
解体業の平均年収は日本の平均と大きく変わらない一方で、働く人々の収入にはかなりの幅があるのが現実です。年収が400万円程度の人もいれば、600万円、700万円、あるいはそれ以上を稼ぐ人もいます。では、その収入の差は一体どこから生まれてくるのでしょうか。主に3つの大きな要因が関係しています。
会社の立ち位置と規模による違い
まず、所属する会社が業界の中でどのような立ち位置にいるかが、収入に影響を与えます。建設業界には、施主から直接工事を請け負う「元請け」と、その元請けから仕事の一部を任される「下請け」という構造があります。
一般的に、元請けの方が利益率が高く、経営が安定している傾向にあります。そのため、社員に支払われる給与水準や、社会保険、退職金制度といった福利厚生も充実していることが多いです。また、会社の規模も無視できません。従業員数が多く、資本金の大きな会社は、大規模な公共工事や複雑な案件を手がけることができ、それが結果として社員の給与に反映されやすいのです。
「できること」を証明する、資格の力
解体業は、資格の有無が収入に直接的に影響する業界です。資格は、自身の技術力を客観的に証明するものであり、会社にとっても「その業務を任せられる人材」であることの証となります。
例えば、工事全体の計画や管理を行うために必要な「解体工事施工技士」や「建築施工管理技士」。アスベスト(石綿)の除去作業に必須の「石綿作業主任者」。これらのような専門資格を持っていると、多くの会社で数千円から数万円の資格手当が毎月支給されます。資格は、できる仕事の範囲を広げ、会社からの評価を高め、給与という具体的な形で自分に返ってくる、非常に重要な自己投資と言えるでしょう。
現場での「役割」が収入を左右する
現場でどのような役割を担うかによっても、収入は大きく変わります。キャリアは、先輩の指示のもとで作業を覚える「作業員」からスタートするのが一般的です。
そこから経験を積み、クレーンや油圧ショベルといった建設機械を操作する「オペレーター」になれば、専門職として手当がつくようになります。さらに現場全体の職人たちをまとめ、安全と工程を管理するリーダーである「職長(しょくちょう)」や、工事全体の責任者である「現場代理人」といった役職に就くと、その責任の大きさに応じて役職手当が支給され、年収は飛躍的に上がります。単に作業をこなすだけでなく、現場を動かす立場を目指すことが、高収入への確実な道筋となるのです。
年収100万円アップも目指せる。収入を上げるための具体的なステップ
解体業の収入は、会社の規模や役割によって決まる部分もありますが、個人の努力や意欲がダイレクトに反映されやすい世界でもあります。受け身で仕事を待つのではなく、自ら行動を起こすことで、着実に収入を上げていくことが可能です。ここでは、年収アップを実現するための具体的な3つのステップを紹介します。
ステップ1:資格を取得し、自分の「武器」を増やす
収入を上げるための最も確実で、最初の一歩となるのが資格の取得です。資格は、あなたの技術と知識を客観的に証明する「武器」となります。
まずは、現場作業に欠かせない基本的な資格から目指しましょう。クレーンで吊り荷を掛け外しする際に必要な「玉掛け(たまがけ)」や、作業の安全を確保するための「足場の組立て等作業主任者」などは、多くの現場で求められます。これらを取得するだけでも、任される仕事の幅が広がり、手当がつく場合があります。会社の資格取得支援制度などを活用すれば、費用負担を抑えながら挑戦できることも多いです。まずは、自分に必要な資格は何かを調べ、計画的に取得していくことが、収入アップへの近道となります。
ステップ2:専門スキルを磨き、「替えの利かない存在」になる
資格という土台ができたら、次はその上で専門的なスキルを磨き、あなたならではの価値を高めていきましょう。特に、収入に直結しやすいのが重機オペレーターとしての技術です。
油圧ショベルやクレーン車といった建設機械を、まるで自分の手足のように正確かつ効率的に操るスキルは、どの現場でも高く評価されます。扱える重機の種類が増えたり、難しい現場での操作経験を積んだりすることで、あなたの市場価値はどんどん上がっていきます。また、建物の構造を理解し、手作業で繊細に解体を進める「手元作業」の技術を極める道や、ガス溶断、アスベスト除去といった特殊な技能を持つ職人になる道もあります。自分だけの専門分野を持つことが「替えの利かない存在」となり、より良い待遇に繋がるのです。
ステップ3:現場を動かす「リーダー」を目指す
一人の作業員やオペレーターとして技術を極めるだけでなく、チームや現場全体を動かす「リーダー」を目指すことも、収入を大きく引き上げるための重要なキャリアパスです。
まずは数人のチームをまとめる「班長」や「グループリーダー」から始まり、経験を積んで現場全体の職人たちを指揮し、安全と品質、工程を管理する「職長(しょくちょう)」へとステップアップしていきます。職長クラスになると、責任が大きくなる分、役職手当なども含めて年収は大きく向上します。さらにその先には、顧客との打ち合わせから予算管理、各種手配まで、工事全体をマネジメントする「現場代理人」や「施工管理」という道も開けています。この段階まで到達すれば、年収100万円アップも決して夢物語ではありません。
安定した収入基盤を築く、これからの会社選びの視点
スキルを磨き、経験を積むことで収入を上げていく。それは解体業の大きな魅力ですが、その努力を正しく評価し、長期的な安心へと繋げてくれる環境を選ぶことも同じくらい重要です。目先の給与額の高さだけでなく、5年後、10年後も自分が安心して働き続けられるか。その視点を持つことが、生涯にわたる本当の収入安定に繋がります。
福利厚生は、未来の自分への投資
給与明細の額面だけでは見えてこない、会社の姿勢を示すのが福利厚生です。健康保険や厚生年金といった社会保険の完備は、働く上で最低限の基盤と言えるでしょう。しかし、本当に注目したいのは、その先のプラスアルファの部分です。
例えば、万が一の業務中の怪我に備え、国の労災保険に上乗せする形で会社独自の保険に加入しているか。将来のために、退職金制度や確定拠出年金(401k)の仕組みが整っているか。あるいは、家族手当や住宅手当といった、日々の生活を支えてくれる制度はあるか。これらは、会社が社員一人ひとりの人生を、長期的な視点で大切に考えているかどうかの表れです。充実した福利厚生は、未来のあなたとあなたの家族を守るための、会社からの投資なのです。
法令遵守と安全への意識が、会社の将来性を示す
特に解体業において、会社の「法令遵守(コンプライアンス)」と「安全」への意識は、その企業の信頼性と将来性を測る上で極めて重要な指標となります。
工事に伴って発生する廃棄物を法律に従って正しく処理しているか。現場周辺の環境に配慮し、騒音や粉じん対策を徹底しているか。そして何よりも、働く人間の安全を最優先する文化が根付いているか。ヘルメットや安全帯の着用といった基本的なルールはもちろん、定期的な安全教育や健康診断の実施など、社員の命と健康を守るために、会社がどれだけ真剣にコストと時間をかけているかを見極める必要があります。安全をおろそかにする会社は、社会的な信用を失い、長期的に存続することは困難です。
時代の変化に対応できる「技術力」を持つか
社会の要請や法律の改正など、時代は常に変化しています。その変化に対応し、事業を継続していけるだけの「技術力」を持っているかどうかも、安定性を判断する上で欠かせないポイントです。
近年、特に規制が強化されているアスベスト(石綿)を含む建物の解体には、高度な専門知識と厳格な管理体制が求められます。こうした社会的な要請が高い工事に、適切に対応できる技術と実績がある会社は、将来にわたって仕事がなくなる可能性は低いでしょう。古い建物をただ壊すだけでなく、環境や安全に配慮した上で、次の時代のために更地へと再生させる。そんな付加価値の高い技術を持つ企業こそが、これからも選ばれ続け、安定した経営基盤を維持できるのです。
もし、あなたが自身の未来を安心して託せるような、しっかりとした基盤を持つ会社で技術を磨きたいと考えるなら、企業の採用情報からその姿勢を読み取ってみるのも一つの方法です。
https://www.ryuokogyo.com/recruit
まとめ:解体業は、スキルと経験で正当に評価される世界
「きつい割に稼げない」というイメージは、解体業の一つの側面に過ぎません。今回見てきたように、その年収水準は日本の平均と大きく変わるものではなく、むしろ個人の努力が収入という形で正当に評価されやすい、実直な世界であることがわかります。
見習いからスタートし、資格という武器を手に入れ、重機操作のような専門スキルを磨き、やがては現場を率いるリーダーへと成長していく。その一つひとつのステップが、着実に自身の市場価値と収入を高めてくれます。学歴や経歴に関係なく、自分の腕と意欲で未来を切り拓いていけるのは、この仕事の大きな魅力と言えるでしょう。
そして、収入や安定性と同じくらい大切なのが、仕事のやりがいです。解体業は、ただ建物を壊す仕事ではありません。古い時代から新しい時代へとバトンをつなぎ、街の再生や未来の暮らしが始まるための「最初の場所」をつくる、社会にとって不可欠な仕事です。自分の仕事が、未来の子供たちが暮らす環境づくりに繋がっている。そう考えると、日々の仕事への誇りも一層深まるはずです。
収入、安定、そして、やりがい。仕事に何を求めるかは人それぞれですが、解体業にはその全てを追求できる可能性があります。この記事が、あなたのキャリアを考える上での一つのきっかけとなれば幸いです。
業界のことや働き方について、さらに具体的な疑問や相談したいことがあれば、専門の窓口に問い合わせてみるのも良いでしょう。