建物の解体を安全かつ計画的に進めるうえで、欠かせないのが「解体工事施工技士」という国家資格です。この資格を取れば、現場の責任者として指示を出したり、工事全体を管理したりする立場にもなれます。けれど、受験資格として「実務経験」が必要とされることを知って、尻込みしてしまった方も多いのではないでしょうか。「経験がなければ無理なのか」「どうやって実務を積めばいいのか」といった不安を抱えるのは当然です。
実は、学歴や職歴によって受験に必要な実務年数は異なり、中には比較的短期間で受験できるケースもあります。また、そもそも未経験者を育てる体制を整えた企業もあり、現場に入りながら経験を積み、資格取得を目指すことも十分に可能です。このセクションでは、「実務経験がない状態からでも資格を取る道はあるのか?」という素朴な疑問を軸に、その具体的なステップを紐解いていきます。
そもそも解体工事施工技士とは?求められる役割と業務内容
解体工事施工技士は、建設業法にもとづく「技術管理者」としての役割を担う国家資格であり、単なる作業員ではなく、現場の統括者としての責任を持ちます。この資格は、元請や下請問わず、一定規模以上の解体工事を請け負う際に必須とされるケースが多く、発注者や行政からの信頼を得る上でも大きな意味を持ちます。
具体的な業務としては、作業手順の策定、安全管理、近隣住民への対応、廃材処理の適正な指示など、解体工事全体を把握・管理する立場に立ちます。現場の進行状況を見ながら作業員に的確な指示を出し、トラブルを未然に防ぐ役割が求められるため、一定の実務知識と責任感が必要です。加えて、構造物の種類や使用されている資材によって工法も異なるため、幅広い知識を備えておくことが望まれます。
この資格は、厚生労働省の登録試験機関である「全国解体工事業団体連合会」が実施しており、筆記試験に合格することで取得できます。ただし、受験には原則として「解体工事に関する一定の実務経験」が求められています。こう聞くと、未経験者にはハードルが高く感じられるかもしれませんが、実際には学歴や職歴に応じてその要件が変わる仕組みになっています。
つまり、今すぐに受験できなくても、資格取得までの道のりは明確に用意されています。重要なのは、いまの自分がどこにいるのかを把握し、どう経験を積んでいくかを考えることです。
受験資格の壁:実務経験なしでも受験可能なルートはあるのか?
「解体工事施工技士」を取得するには実務経験が必要――この条件が、未経験者にとって大きなハードルに感じられるのはもっともです。ただし、すべての人に一律の年数が課されているわけではありません。受験資格は、最終学歴や建設業における他職種での経験などによって細かく区分されています。
たとえば、高卒で建設業に関する学科を卒業した場合は3年以上、大学卒であれば1年以上の実務経験で受験が可能とされる場合があります。また、関連業務として「解体以外の工事における現場管理経験」や「建築施工管理の補助経験」も一部認められることがあり、実務の内容や書類の整え方次第で、未経験に近い立場からでも受験が視野に入るケースもあります。
加えて、民間資格や講習を経由した知識証明も補足材料として機能することがあり、事前に受験機関へ相談することで、思い込みとは異なるチャンスが見つかることもあります。「自分は未経験だから無理」と決めつける前に、まずは自分の学歴や職歴、現在の業務内容がどのように評価されるのかを確認することが重要です。
また、現在は「資格取得を前提に育成する」ことを前提とした求人も増えてきています。こうした企業で経験を積みながら、資格要件を満たす働き方をするのも一つの選択肢です。受験までの時間は人それぞれ異なりますが、道が閉ざされているわけでは決してありません。必要なのは、正確な情報を知ることと、数年単位でキャリアを見据える視点です。
実務経験を積むには?未経験から資格を目指す3つのルート
解体工事施工技士を目指すには、実務経験を積むことが欠かせません。それでは、資格を持たない未経験者がどうやってその経験を積んでいけばよいのでしょうか。ここでは、現実的かつ実践的な3つのルートをご紹介します。
まずひとつ目は、未経験者歓迎の解体業者に就職することです。多くの現場では補助作業や手元作業から始まり、日々の業務を通して工事の流れや安全管理、作業工程を学んでいきます。こうした企業では、資格取得支援制度があるところも多く、実務を積みながら国家資格へのステップを計画的に踏むことができます。
ふたつ目は、建設業の中で関連業務に携わる方法です。たとえば、リフォームや建築施工などの分野で現場管理や解体に近い作業に関わることでも、実務経験として認められる場合があります。直接解体に携わらなくても、施工管理や工程調整などの業務経験が、受験資格にカウントされる可能性があるのです。
そして三つ目は、訓練校や職業訓練センターを活用するルートです。公共職業訓練では、解体や建設に関する基礎知識や技術を学べるコースもあり、修了後には実務経験を積みやすい企業へと就職する道も拓けます。自治体によっては訓練と就職が一体化した支援制度を設けていることもあります。
どのルートにも共通しているのは、「最初から理想的な経験を積もうとしないこと」です。目の前の現場で一つひとつを学びながら、数年後の資格取得を見据えて動き出すことが、最も確実で堅実な道となります。
独学は可能?解体工事施工技士の試験内容と勉強方法
解体工事施工技士の試験は、主に筆記形式で実施され、解体に関する法律・技術・安全管理などの幅広い知識が問われます。出題範囲は「建設業法」「労働安全衛生法」「建築構造・工法」「廃棄物処理法」などが中心で、実際の業務経験があれば比較的理解しやすい内容ではありますが、未経験者にとっては見慣れない用語や制度も多く、独学にはある程度の根気と計画性が求められます。
市販の対策テキストや過去問集は充実しており、基礎から体系的に学べるように構成されているものが多く存在します。過去問を繰り返し解くことは非常に有効で、出題傾向を把握するうえでも重要です。また、全国解体工事業団体連合会などが主催する講習会に参加することで、最新の出題傾向や改正された法令への対応も可能になります。特に業界に精通した講師から実務に根ざした解説を聞けることは、独学では得られない大きな利点です。
一方で、実務経験を積んでいる現場の作業員にとっては、日常の業務そのものが実践的な学習の場になります。現場での気づきや、先輩からのアドバイスがそのまま試験対策につながる場面も少なくありません。資格取得に向けて「ただ机に向かう」のではなく、「働きながら学ぶ」ことができるのも、この業界ならではの特徴です。
未経験者がいきなり試験合格を目指す必要はありません。まずは現場に入り、少しずつ知識を積み上げていくこと。それが最も現実的で、挫折しにくい方法です。
👉 採用情報はこちら
最短ルートで資格取得へ──未経験からでも諦めない方法とは
「経験がないから難しい」と思っていた道も、情報を集め、計画を立てて進めば、確実に近づいていきます。解体工事施工技士という国家資格は、たしかに簡単ではありません。しかし、未経験から少しずつ実務を積み、働きながら知識を身につけていくことで、数年後には受験資格を得て、合格へと手が届く現実的な目標になります。
重要なのは、焦らず着実に経験を積んでいくこと。そして、自分の現在地を把握し、そこから逆算して「何年後に受験するか」「どんな現場で経験を積むか」といった計画を立てることです。無理のないステップを重ねることが、資格取得とその先のキャリアにつながっていきます。
少しでも興味が湧いた方は、まず現場を知ることから始めてみてください。